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半旗にも縦長にもしないサウジの国旗

国家的な不幸や友好国の元首の逝去、大震災などに際し、国旗によって弔意を示すことが国際的な常識となっています。

1964年11月22日、私はオリンピック東京大会組織員会の“社員旅行”で富士五湖周辺を通りかかったとき、いくつかの米軍関係施設の「星条旗」が半旗になっており、急遽、マイクロ・バスのラジオを聴かせてもらい、ケネディ米大統領の暗殺を知りました。

89年1月7日、昭和天皇の崩御に際し、根室市をはじめいくつかの地方公共団体や企業から、国旗や社旗での弔意の表し方について問い合わせをいただきました。

国旗で弔意を表すには、①一度上まで揚げた国旗を少し下げる、②竿球を黒布で覆う、③竿球から黒いリボンをたらす、といったやり方が国際的な慣習です。状況によっていろいろ難しいこともあるでしょうが、心得たいものです。

2001年の「9.11同時多発テロ」の時、都内で最初に「日の丸」を半旗にしたのは溜池山王の日本財団ビルとアメリカ大使館でした。その後、5日ほど経っても日本では首相官邸も外務省も国会議事堂もいつものように「日の丸」を高々と揚げているのです。そこで私は何度もしつこく注意し、一週間ほどでこの3ヵ所はようやく半旗になりました。

ところが、11年の「3.11東日本大震災」でも、あまり変わりませんでした。ただ、首相官邸などは4日目にようやく国旗を下げました。ちなみに都内の大使館の多くは、未曾有の震災に際し、すみやかに、自国の国旗やEU旗、ASEAN(東南アジア諸国連合)旗などを半旗にしていました。

震災から満5年、2016年3月11日、国会議事堂、首相官邸をはじめ東京の官公庁では一斉に「日の丸」を半旗にしました。たまたま通りがかった目黒信用金庫では玄関前に国旗を立て、竿球を黒い布で覆い、黒の太いリボンを垂れ下げていました。やっと日本も国旗のマナーを覚え始めたのでしょうか。いいことです。同じ日、レーガン元大統領のナンシー夫人の追悼会がカリフォルニア州シミバレーにあるレーガン大統領記念図書館で行われましたが、オバマ大統領の指示で、全米すべての公共機関が半旗とし、民間でもそれに従うところが多かったようです。


↑サウジアラビアの国旗だけは半旗になっていない。

ところで、08年6月5日、ドバイ在住の若き畏友・吉田寛明君から写真を添付したメールが来ました。

2008年6月5日、アラブ首長国連邦のドバイ・グランド・ハイエットホテル前で。吉田くんが撮影したものです。メールには説明もついています。「UAE(アラブ首長国連邦、ドバイはその構成首長国の1つ)では2日前にアブダビの王様(=UAE大統領)の弟君がヘリコプター事故で亡くなり、昨日から3日間喪に服しています。添付の写真にあるようーに、他の全ての国旗が半旗になっていますが、1枚だけ高々と揚がっているのがあります。ご存知のサウジアラビアの国旗です」。


「シャハーダ」を描いたサウジアラビアの国旗。
刀はメッカおよびイブン・サウドでの勝利を表す国宝の「ラハイヤン」。

「吹浦先生の『世界の国旗かるた』にも書いてあるように、そこには聖なるアッラーの言葉が綴られており、いついかなる場合も絶対に下げてはならないのだそうです」。

サウジアラビアの国旗には、聖地メッカを守る決意を示す剣の上に、『コーラン』の冒頭の聖句「ライルアッラー ムハンマドゥル ラシル ウッラ(アラーのほかに神はなくムハンマド(モハメット)はアラーの預言者なり)」とアラビア語で描かれてあります。聖句は信仰告白(シャハーダ)といい、これを真摯に唱えればイスラム教徒とみなされます。

聖句ゆえ、旗を製作する場合でも、表裏どちらからでも読めるよう、同じものを2枚染めて縫い合わせて作らなくてはなりません。

また、この聖句があるため、垂直掲揚(縦長掲揚)にはしないことになっています(やむをえない場合は90度文字を回転した特製の旗を掲げる)。「半旗に反旗」と言うところでしょうか。ブラジルの国旗も同様、縦には掲揚しないことになっています。

吉田くんに感謝するとともに、「もし機会があったらNYの国連ビルあたりで同じような光景を実見したいものですね」と、不謹慎な返信をしてしまいました。反省。

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