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イラクで提案された新国旗

2004年には、イスラムの国には珍しい青と黄色の国旗案が議会で審議されました。その後、08年1月22日にイラク国民議会で国旗変更に関する決議が出され、投票結果は、賛成110、反対50でした。議会の審議の過程では、星はそのままにして「平和、寛容、正義」を表徴すると説明する予定でしたが、最終的には、星は取り除かれました。
それでもこの議決は実行されていません。

なお、新しい旗は1年以内に変更を含めた再検討がなされるとなっているのですが、16年2月1日現在、さらに新しい国旗が制定されたという発表はありません。


2004年に提案された新国旗案

イスラエルの国旗

緑白赤黒の4色があったら、まずイスラムの国の国旗です。世界には16億人ものイスラム教徒(ムスリム)がおり、大雑把に言って、その9割はスンニ派、1割がシーア派です。両者は預言者ムハンマド(モハメット)の後継者を巡って分かれました。すなわち、ムハンマドのいとこで4代目カリフ(最高指導者)であるアリの血統を正統と見なすシーア派に対し、スンニ派は信者によって選ばれた者がカリフになるべきだと主張するのです。

中でも緑色は、預言者ムハンマドお気に入りの色で、自らのターバンやコートの色と伝えられています。パキスタンの国旗やサウジアラビアの国旗は緑地に白色で月や文字などが描かれており、リビアの国旗はカダフィが潰える2011年まで緑一色の無地で構成されていました。赤色は、アラブ人の愛国心や汎アラブ主義を表すのに使われます。また黒色は暗黒の過去、白色は純潔や平和を表すことが多いです。

2004年4月26日、イラク暫定統治評議会はフセイン政権崩壊後におけるイラクの新国旗を発表しました。暫定政府が主張するには、この新国旗は著名なイラクの建築家兼芸術家であるリファアト・ジャディーリーによってデザインされたものであり、これが、他の30の競合する出品から選ばれたものであるというのです。

その旗は、背景が白で、底の4分の1には、青色・黄色・青色と平行な帯が横に並んでいます。すなわち、3本の線については、青の帯はチグリス川とユーフラテス川を表しており、黄色の帯については、何を象徴としているものかは不明確ですが、クルディスタンの旗が「緑・白・赤の横三色旗に黄色い星」であることから、少数派のクルド人を表していると見るべきでしょう。中央には、イスラム教を象徴する大きな三日月があります。しかし、これは淡い青色です。

イスラム教の象徴である三日月は、五芒星と組み合わせて描くのが基本です。色はアルジェリアとチュニジアの国旗では赤、トルコ、リビア、パキスタン、モルジブ、コモロそして旧ソ連のウズベキスタン、アゼルバイジャンの国旗では白、モンゴル、マレーシア、モーリタニアの国旗では黄色といった配色ですから、青系の三日月はほかには東クルディスタン(新疆ウィグル)の独立運動の旗に見られるだけです。

このデザインは、過去のイラク国旗や他のアラブ諸国の国旗で使用されている汎アラブの4色とは著しくかけ離れているので、新生イラクという新鮮な雰囲気を醸し出しました。新提案の国旗はイスラエルの国旗を連想させる、デザインした人物に問題があるなどとして、イラク国内で論争になり、結局、は04年6月28日のイラク暫定政権への主権移譲式典の会場には揚がりませんでした。多くの反発にさらされた白と青の国旗案は放棄され、式典会場には1991年制定の国旗を若干修正した暫定的な国旗が掲揚されたのでした。


当初案1:クルドの象徴である太陽を中央に配置

当初案2:「アッラーフ・アクバル」の配色を変更

クルディスタンの旗。
イラク北部地域で使用。

08年1月の国旗法改正で採用されたデザイン以外には「アッラーフ・アクバル」のタクビールの中間にクルド人を象徴する太陽を配置したものや、04年6月から暫定的に使用されていた旗のデザインを踏襲しつつ同じ文言の部分のみ緑色から黄色に配色を変更すると共にバアス党時代は「統一、自由、社会主義」の象徴とされた三つの星を「平和、寛容、公正」の象徴に改める案などが提示されていました。今後ともイラクの国旗は政治の安定と内戦の終結、民俗的宗教的宥和の進行などと絡まって紆余曲折を経てゆくのではないでしょうか。

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