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赤「十字」では具合の悪い国も

もう少し詳しく、見てみましょう。

1878年の露土戦争に際し、トルコは赤十字 crossではキリスト教のイメージが強く、自国の将兵の士気にかかわるとして赤新月crescentを用いることをICRC(赤十字国際委員会)やロシア側に通告したのです。ICRCはそれで効果的な戦時救護が出来るならやむを得ないと考え、一時的な措置としてこれを容認したのが、赤新月標章の始まりです。

しかし、その後ペルシャ(現イラン)、シャム(現タイ)等が新たなマークの承認を求め、イスラム諸国にも赤新月がいいというところが出てきました。あとで記しますが、わが日本も、赤十字の標章をすんなり受け入れた国ではありませんでした。

以下は、2006年4月4日、東京財団の虎ノ門DOJO(道場)で私が司会をして行なった、畏友・近衞忠煇(ただてる)日赤社長の講演録を参考に加筆したものです。

基本的な論点は、赤十字に宗教的意味のありやなしやであり、ICRCは一貫して「無し」として赤十字一本にすることを主張しつづけて今日に至っているのです。

日本もその理解で条約に加盟しました。しかし「ある」と考える国もあり、新たな中立のシンボルマークを作るべしとの提案も何回か出ているのです。そこで1906年にはわざわざ宗教的意味がなく、スイスの国旗の色を逆にしたものとの解釈が公式に記録されました。それでもその効果はなく、29年のジュネーブ捕虜条約採択時に赤新月と赤獅子太陽 Lion & Sunが正式に保護の標章として加わったのです。イスラエルは37年以来、「ダビデの赤楯」を使用したいと諸外国に働きかけましたが、49年のジュネーブ条約の制定時には投票の結果、賛成21、反対22、棄権7という僅差で否決されています。

イスラエルが「ダビデの赤楯」にこだわるのは、3500年来使ってきた実績とナチスの犠牲のシンボルとしての意味を付しているからですが、事実上、一国を満足させるために条約まで改正することには、多くの国と社が不快感を示しており、政治的な妥協以外の何ものでもないと捉えるほかありません。但し、この動きはイスラエルのダビデの赤盾社、パレスチナ赤新月社の双方が歓迎しており、両社は、昨年の11月28日には協力関係を強化する覚書を交わしているのです。

国際赤十字でのイスラエルの同様の組織は長らくこのマークを赤にした「Magen David Adom(ダビデの赤盾)」でしたが、2005年末の赤十字国際会議で赤い菱形のマークが正式に承認され、世界で唯一、レッド・クリスタルを組織の標章にしています。

「標章は英語をそのまま、レッド・クリスタルと呼んでおり、組織名はダビデの赤盾社と呼んでいます」(日本赤十字社国際部)ということです。「赤水晶」「赤い菱形」「赤菱」などとの訳も出ているようですが、ここは日赤の呼称に従いましょう。

新たなマークは「赤十字」「赤新月」に加える形で、ジュネーブ条約の第3追加議定書として承認されました。何につけてもイスラエルを敵視する国々があるため、全会一致が見込まれなかったので、議定書案は採決によって採択されたものです。報道によると投票結果は、賛成98、反対27、棄権が10でした。

これで国際赤十字の標章はまた3種類となりました。「また」というのは、かつて、1979年のイラン革命まで、同国の組織は「赤獅子太陽」社であったからです。

赤十字にキリスト教を連想させるという話に比べれば、『旧約聖書』の「ノアの箱舟」の話に基づく国連旗のオリーブの枝に、寡聞ながらキリスト教国以外が文句を言ったとは聞きません。話が収まっているようです。

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