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オーランド諸島の帰属問題を解決した新渡戸稲造

見慣れぬ旗かもしれません。しかし、赤い十字がなければ…、そう、スウェーデンの国旗です。これがオーランド諸島の旗なのです。スウェーデンの国旗にフィンランドの国章から赤を採って十字に重ねたものです。


オーランド諸島の旗

スウェーデンと言えば北欧家具の中心地。1943年創立のIKEAは世界を制していると言っても過言ではないでしょう。今は本社をオランダの南ホラント州デルフトに移しています。一方、フィンランドといえばNOKEA。携帯端末機部門では長らく世界を制覇し、「フィンランドではコーク1本でも携帯で買える。現金がいらない」とヘルシンキに駐箚したにほんからのある大使が激賞していました。しかし、競争の激しいこの分野で、一時深刻な経営難に陥り、今は再建中といったところでしょうか。

オーランド諸島は、バルト海のボスニア湾口に位置する6,500を超える島々。合計面積が1万3千平方キロメートル。つまり千葉県と愛知県を合わせたくらい、北方4島の2倍より少し大きい面積です。現在はフィンランドの自治領ですが、住民のほとんどはスウェーデン語で生活しています。オーランド諸島はもともとスウェーデン領フィンランドの一地方としてスウェーデン王国に帰属していました。しかし、1809年にスウェーデンがロシアとの戦争に敗れました。このため、フィンランド地方がロシアに割譲されたため、オーランド諸島もロシア領フィンランド大公国の一部となりました。

53年11月に始まったロシアとオスマントルコの戦争(クリミア戦争)英仏両国などがトルコ側について参戦しました。このとき英仏側はスウェーデンがロシアの北辺に脅威をあたえるため、スウェーデンの参戦を期待し、艦隊を派遣してこの方面のロシア軍を攻撃したのでした。

これに対してロシアはスウェーデン人化学者アルフレッド・ノーベル(1833~96)を雇用し、発明されたばかりの機雷を使ってバルト海を封鎖しました。このようにスウェーデンは中立政策を採ってきたのですが、英仏政府は執拗に参戦を催促、スウェーデンは、英仏側の勝利が見えた戦争末期に、ようやく重い腰をあげたのです。

56年のパリ講和条約でクリミア戦争は終結となったのですが、この条約でオーランド諸島はスウェーデントロシア間にあって中立の非武装地帯となりました。しかし、1914年、第一次世界大戦の勃発に際し、ロシアはこの条約に違反したままオーランドの要塞化を図ったのです。

この大戦の末期になると情勢はさらに混沌としました。

フィンランド本土ではロシア革命の動きを千載(せんざい)一遇(いちぐう)のチャンスとして、独立運動が盛り上がり、オーランド諸島では逆にフィンランドから離れて再びスウェーデンに帰属を求める運動が起こり、スウェーデン国王に再統合を求める嘆願書を提出したのです。

問題の解決に大きく貢献したのが、国際連盟の新渡戸(にとべ)稲造事務次長。同諸島は古くはロシアとスウェーデンで帰属を争ったり要塞化をしたりしていましたが、1921年に、新渡戸事務次長の裁定により、オーランドのフィンランドへの帰属を認め、その条件としてさらなる自治権の確約を求め、オーランドの自治が確立しました。現在、帰属国を問う島民による住民投票では高度の自治権をもち、スウェーデンとフィンランドがともに「シェンゲン協定」加盟国であるため、島民は国境を自由に往来できることから現状維持が続いているのです。旗は訪欧に損しつつ、それらの経過を示して、このデザインになったといえましょう。

しかし、これでもなお解決には至りません。現在、フィンランド政府はスウェーデンへの復帰を認められていますが、住民の過半数が、スウェーデンの一つの県になるより、フィンランドで大幅な住民自治権を得たほうがいいという調査結果が出たのです。

いまのところ、形の上ではフィンランドの一部であり、実態はほとんど独立国で、島民はスウェーデン語で生活しているという現状が是認されていると言っていいでしょう。政治史的には大変複雑な地域ですが、国旗は北欧諸国に共通な十字型旗です。

隣国との間に領土問題を抱える日本としては、この「新渡戸裁定」が問題解決の1つとして、参考にしていいのではないかという友人もいます。

デンマークのボルンホルム島にせよ、フィンランドのオーランド島にせよ、北欧5カ国では各地域の自治体の旗も、多くがこの十字型の旗を採択して、地域的一体性を確認するかのように翻っています。また、宗教的には大多数がキリスト教プロテスタントの人たちです。
しかし、同時に理解せねばならないのは、これらの5カ国といえども、過去500年を遡れば、領土や権力をめぐって激しい戦いを繰り返し、今でも政治や経済の面でかなりの独自性を保っていることだと思います。

現在、政体としては、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーが王国、NATOに加盟しているのはアイスランド、デンマーク、ノルウェー、EUのメンバーなのはフィンランド、デンマーク、スウェーデン。安全保障面ではアイスランドは独自の軍を持たずNATOに防衛を依存し、2015年にスウェーデンはフィンランド及びNATO加盟国であるデンマークと個別に軍事協定を締結しました。クリミア半島の占拠など「東の大国」ロシアの無法ぶりに、スウェーデンが伝統の政策的中立政策を換えたということでしょう。

国旗が似ているとはいえ、それぞれ独自の国であり国旗です。北欧5カ国を安易に1つに考えるのは禁物だということでしょう。

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