北欧1番の小国アイスランドと大きな島であるグリーンランドは地球の温暖化が進む中で今、注目度が上がっている国の1つです。日本財団がロシアやノルウェーと北極海航路について研究を重ねていたのは1990年代の半ばでした。当時は、「これはすごい未来学だ」とおもいつつも、「そんな時代が来るんでしょうか」というのが私のホンネでした。
デンマーク領だったアイスランドは1918年、デンマークの支配下から、同国と同君連合の形で事実上独立したときは、非武装中立を掲げていました。しかし、第2次世界大戦中の40年、デンマークがドイツに支配されるや、戦略的要衝として英軍が進攻、翌年には米軍も入ってきました。戦争末期の44年には共和国として完全独立を果たしたのですが、戦後は軍を持たないまま、軍事同盟であるNATOの創立メンバーとなり、軍隊のない30数万人の小国が米国の「不沈空母」となっていったのです。
しかし、冷戦終結となると米軍が駐留を続ける意味は薄れました。米軍は2006年9月に撤退。基地従業員約600人の職場が消えてしまいました。
後をまかされた「ケフラビク空港開発公社」のキャルタン・エリクソン社長(43)は「この空港は、軍事より民生の方がはるかに有効な使い道がある」と説くのです。ロンドンから3時間、ニューヨークへ6時間という地の利が何よりの強み。新たな雇用は、既に650人以上。「それも、金融危機をへての数字だ」。
アイスランドを08年秋から襲った経済危機のことだ。金融立国の柱だった銀行が次々に倒れ、国家財政も破綻(はたん)。通貨クローナは暴落した。EUに加わり、ユーロの大樹に寄るべし、という世論が一時は高まりました。
ところが、ユーロ自体も危機に見舞われ、失墜したのです。求心力を失うEUを目の当たりにしたアイスランドは15年、加盟交渉を打ち切ったのです。
変化の波が、北から来ている。地球温暖化で北極海の氷が溶け、航路が大きく開けば、世界の物流が変わりかねない。最前線といえるアイスランドにも、大国が熱い視線を注ぐようになったのです。
以下、最新の情報を「大国に揺られる北の小舟」の見出しで朝日新聞の梅原季哉記者が2016年2月6日の同紙に書いています。
「代わって中国がアイスランドを相手に13年、欧州諸国との間では初めて結んだ自由貿易協定(FTA)を結んだ。空港開発公社のロビーにも、中国語の企業団地パンフレットが置かれ、<数年以内に中国直行便を>との期待感が漂っている。
一方、北極圏では、ロシアも動きを強めている。アイスランドのスベインソン外相は、ロシア軍による事前通告なしの行動への懸念を示しつつも、それでも<06年以前のような米軍基地の再展開はない>と退ける。
アイスランドの行く先は、なお見えてこない部分があります。しかし、あの厳しい冷戦は1986年10月、この小さな国の首都レイキャビクでのレーガン米大統領とゴルバチョフ露大統領の会談で終焉に向かったのでした。